心の奥底から湧き上がってきた言葉で、自分を見つめよう

さらば、ガク

ひまわりちほりん

野田知佑:

  椎名もついてたよね。最初に来たときは、一年でいちばんいい季節なんだよ。五月の連休で、若葉が最高に美しい頃で、しかもだれもいない。で、いきなり湖にカヌーを乗り出してどんどん漕いで、ファルトボートだからひっくり返るとか全然ないんだよね。ああいうときにカヌーをやるとカヌー好きになるよ、だれだって。

椎名誠:

  あれはショックでした。あのときね、僕には特別な思いがある。僕はそれまでサラリ-マンやってたでしょう。吹けば飛ぶような会社なわけですよ、いま思えばね。でも一応、会社のふりして、役員だなんだいろんなのがいて、四の五の言うわけですよ。辟易して僕はそこを辞めて、こういう世界に入ってきたんだけれども、この先どうなるかわかんない。野垂れ死にするかもしれない。家族はいるし、ある種の憂鬱な、しかしどこか、その憂鬱の先のほうに何か光明があるみたいな、まあ複雑な時代だったですね。そんなときに野田さんに会った。

野田:

  ほんとよく来てたよね、あの頃は。息子の岳なんか、親の仇討ちみたいに毎週来てもんな。ザックの中にルアーだ、網だ、それから釣り竿を三、四種類それぞれ二本ずつ、弁慶の七つ道具みたいにかついでやって来た。

椎名:

  少年にとっちゃ、最高ですよ、今のこの膠着した世の中じゃ、無職のしゅっちゅうどこか行ってる怪しいおじさんて、許されないですからね。 一般的な家庭では絶対そういうヒトはダメなヒトでしょ。野田さんはまこと正真正銘の怪しいおじさんだった。でも、子どもにとっては怪しいおじさんほど面白い人はいないんだよね。こんなに面白いことをいう人は他にいないんだから。彼はいいおじさんを得たんだなあ。それは、彼にとってもラッキーだったね。


野田知佑著「さらば、ガク」より。

最近、人に会うのが大好きだ。

きっかけは、去年秋に子連れで出かけた沖縄旅行だ。
私が加入している全国組織の親子サークルで、沖縄の方を紹介してもらい、2人のお母さんに会った。


そもそも去年の春には、中学3年から高校3年生までの4年間住んでいた静岡に、子連れで旅行した。
静岡時代は自分のことが大嫌いで、二度と静岡になんか行くものかと思っていた。
 
でも離婚を決意して、だんだん自分が好きになってきたら、大嫌いだった自分がいた場所を見てみたくなった。
自分のことが嫌いになるほど苦しんで、かわいそうだった私。
そんな私を、抱きしめに行ったんだと思う。


私たち家族が住んでいた社宅のアパート。
バスで通った中学校。
大好きだった安倍川。
自転車で3年間通った高校。

受験のため家と学校の往復しかせず、友達と遊ぶこともしなかったけれど、本当は行ってみたかった繁華街や観光地。


自分ひとりで行くなら、もっと浸りたかった。
自分が悲しんだ場所に、苦しんだ場所で、ゆっくり時間を過ごしたかった。
でも、子供と一緒。
5歳の息子と3歳の娘は、やっぱり公園が好き。

ゆっくり社宅のアパートの前に座り込みたかったけれど、「早く行こうよ」と飽きた息子に催促されたり、ホテルの前の公園で遊んだり(これじゃ地元にいるのと変わらない気分)。


嫌いだった自分のいた場所を見に行くため、誰にも会いたくなかった。
こっそり、自分を癒したかったのだ。

でも、子供と3人きりで5日間。
疲れた。

子供たちも疲れたと思うが、レストランに入るたびにこぼさないかずっと目を見張り、ホテルに入るたび走り回る息子を静めるのに、私は疲れたのだ。


旅行が終わって実家に寄ったときの、ほっとした表情の子どもたちの顔が忘れられない。
遠くに行くより、誰かと楽しい時間を過ごしたいのだ、子供たちも、と思った。


それで沖縄に行くときは、そこで生活している親子に会ってみようと思った。
そうすれば子供たち同士でも遊べるし、私も沖縄の地元のお話が聞ける。

添乗の仕事でも、プライベートでも何回も沖縄は行ったことがある。
だから観光以外の、沖縄の生活を知りたかった。


一人目の方は、子供が通うエーサー教室に一緒に連れて行ってくれた。
エーサーって、沖縄の踊りだ。
初めて観た。

体育館で、子供会の集まりのようにお母さんと小学生たちがいっぱい。
わあわあ騒いでいる子、テープで流れる音楽にあわせて上手に踊る子。
指導するのも、どこかのお母さんらしい。
でも、エーサーの踊りを発表する日が決まっているらしく、
「やる気のない人は辞めていいんだよ!やりたいって言う子は、いっぱいいるんだから」
と、活を入れていた。

息子と娘は恥ずかしがって踊らなかったが、私は上手な女の子を見ながら真似して踊った。


翌日から始まる産業祭りで、1000円という安値でエーサーに使う小さな太鼓が買えると教えてもらった。
私たちはそのお祭りに行き、息子と娘に太鼓を買った。
息子は、三味線や大太鼓もほしいと言った。
何万円もするので買えなかったが、体育館の壇上にあった大太鼓を見ていたんだなあ。
昨日一緒に踊らなかったのに、買った太鼓でエーサーを踊る娘。見ていたんだなあ。


二人目の方は、夜、自宅の庭でバーベキューをしてくれた。
翌日の土曜日は、お休みのご主人が歩いてすぐの海岸に連れて行ってくれた。
10月まで泳げるとは聞いていたが、やはり涼しくなるので、地元の方は9月までしか泳がないと言う。
ご主人やそこの息子さんたちは、薄いウエットスーツを着ていた。

また私は水中メガネを持っていったが、ご主人は子供用に、浮き袋の真ん中にビニールが張っ
てあって海の中が見えるものをもっていた。
これなら小さい子でも、海の中の青い魚(コバルトスズメなど)が見える。

それから我が息子は、そこのうちの息子さんと一緒に、近所の友達の家に遊びに行ったりした。

ただの住宅地にしか見えない場所でも、そこに友人ができると、違った景色に見える。
まるで自分もここに暮らしているかのように、身近な風景になる。


友人となった彼女とは、今でも電話でやりとりする。
ちょうど私も彼女も、起業しようとしていたところだった。
方向が似ていたので、共同ビジネスもいずれ、立ち上げる予定だ。

沖縄と栃木。
インターネットのおかげで、一緒にビジネスができるとは面白い。
それも子育てしながらのお母さん同士。
楽しい。


誰かに会いに行くために、自分で交通費を払って、時間をかけて会いに行く。
面倒くさい。
お金もかかる。

しかし、行ってみた成果は計り知れないものがあった。
まさに、会ってみなければわからない。
どんな人なのか、どんな素敵な話を聞かせてくれるのか、どれくらいの影響を自分の人生に与えるのか。

講演会で話を聞くのと違って、1対1での会話だ。
相手を独占できる。
一期一会だから、思い切って突っ込んだ話も聞けちゃう。


沖縄に行くときは、実家の千葉に泊まってから羽田空港に向かった。
実家に数日滞在した間には、埼玉や東京にも、起業した女性たちに会いに行った。


メールや電話でのやりとりだけではわからない、彼女たちの顔、体。
顔や体つきを見るだけでも、価値がある。
美人だからとかそういうのではなく、やはり生き様が顔や体に表れるからだ。
そして自分の生きてきた人生を背負っている顔と体を持つ、その人が私の前でしゃべってくれる。

どんな表情で話すのか、目を合わせて話す人か合わさない人か、初対面の私にどれだけ心を開ける人なのか、プライベートな質問にどれだけ思い切って話をしてくれるのか。

言葉だけではない部分、言葉以外の多くのことを、直接会うと知ることができるのだと知った。
今、どんなふうに生きているのか、うまくいっているのかどんな悩みを抱えているのか、言葉で表わしきれないものをいっぱい。


うれしい。
だって、起業して仕事をしている女性たちも悩んでいる。
人間関係にも、つまづいている。
私と変わらない悩みを持つ人間なんだと、わかったから。

頑張っている毎日で、こんなにもイキイキとしているその姿。
きらきらした目。
憧れた。


その後私は起業し、メール・マガジンも3誌、書き始めた。
それから数ヶ月。

ネタにつまってメルマガに友人のことまで書いたが、ビジネス作家の杉山勝行先生に、「ネタが少ないのは、人に会わないからだよ」
と教えられた。

なるほど。
そうだったのか。
あまり自分から会いに行こうとしない、面倒くさがり屋の私。

でもそのアドバイスで、沖縄で自分で会いに行って楽しかったことを思い出した。


その頃、社外勉強会はビジネスマンにとって人脈作りに大事だ、起業するために必要だ、といった本を読んだ。
子連れの私に、出会いは少ない。

ちょっと子供が足かせになっているような気がした。
でも、思い出した。
私は、親子サークルの地元でのお世話役をやっていた。
何だ、”社外勉強会”を私も主催しているではないか!


そのおかげで、新しく出会う人がいっぱいいたなあ。
去年、毎月の集まりで何人もの新しい友人ができていた。
その友人たちは今では、私が実家から離れた場所で、シングル・ペアレントとして生きていくために必要な人たちだ。
あんまり身近になりすぎて、お世話役の恩恵を忘れていた。


今年も親子サークルに新しい人が入ってきて、我が家に子連れで泊まったりした。
来月も、子連れで別の友人宅に泊まりに行く予定だ。
5月も、泊りがけで違う友人宅に集まることになっている。
そしてさらに新しい人と、出会うことになっている。


それから私が書いている楽天日記では、今年1年間でやりたいことを1月頃書いた。
3月までに、つまり息子が小学校に入学するまでに家を購入し、春休みは関西へ旅行すると書いた。

ここの第1回目のコラムで書いたように家は買わなかったけれど、買おうと思えば買えた。
なんだ、願いは実現するんだ、かなうんだと思った。
ただ、買うのをやめただけ。

もちろん、ものすごく気に入った家ではなかった。
難点があったから買わなかったのだけれど、それでも、私でもすぐに買える値段の家にめぐり合えたというすごいチャンスだった。


そして春休みは、杉山先生に指導していただきながら小説を書くため、取材するから予定を空けておいてくれと言われていた。
ああ、関西にも、息子が急に行きたいと言い出した沖縄にも、行けないなあと思っていた。

でも、取材も来週で一区切りつくことになった。
つまり、春休みが1週間、暇になったのだ。


おお、関西にでも行けるではないかと思った。
お金さえあれば。

関西に引っ越した友人、MLで知り合った人、私のメルマガを通じてお友達になった人、他のメルマガで知り合いになった方などがいる。
その人たちに会いたい。

子連れなので、子どもたちが楽しめるような旅行にもしたいと思っている。
でも、私も会いたい人に会ってみたい。


ああ、夢ってかなうんだな。
楽天日記に書いたから、かなうのだ。
誰かのために、義務で行くのではない。
書いたから、公言したから、それを自分で実現したいというエネルギーのためだけだ。

なぜなんだろう?
書くと、それをやり遂げようという気持ちになる。
もしも楽天日記に書かなかったら、旅行に行く余分なお金もないので、行かないことにしたと思う。


もうすっかり、行く気になっている。
貯金の残高がいくらかも、見ていないのに。


夢って、かなうんだ。
関西には行けるし、家は買わなかったけれど買うこともできた(1月には買いたかったが、3月には買わないという最終判断に到っただけだ)。


遠くにいる人に会いたいという夢も、かなうんだ。
楽しい人生を送りたい、幸せになりたい、本を出版して作家になりたいという夢も、かなうんだ、きっと。




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