心の奥底から湧き上がってきた言葉で、自分を見つめよう

世界の中心で、愛をさけぶ

ひまわりちほりん

それには答えずに、「どっちが幸福なのかしらね」と彼女は言った。

「何が?」
「好きな人と一緒に暮らすことと、
別な人と暮らしながら好きな人のことを思いつづけることと」

「そりゃあ一緒に暮らす方だろう」

「でも一緒にいると、その人の嫌なところも目にするじゃない。
つまらないことで喧嘩(けんか)したり。
そういうことが毎日積み重なっていくと、
最初はどんなにその人のことが好きでも、何十年後かには、
何も感じなくなってしまうんじゃないかしら」
確信ありげな言い方だった。

「ずいぶん悲観的なんだね」
「朔ちゃんはそんなこと考えない?」


「ぼくならもっと前向きに考えるな。
いま相手のことがすごく好きだとする。
十年後にはもっと好きになっている。
最初は嫌だったところまで好きになる。
そして百年後には、髪の毛の一本一本まで好きになっている」



片山恭一著「世界の中心で、愛をさけぶ」より、引用。
cover




私は、鏡を見るのが苦手だった。
だって、不幸な表情なんだもん。


不満そうな顔つき。
つまらなそうな表情。

私だけ損していると妬み深く、ひそめた眉。

心の中では爆発しているくせに、言いたいことも言わずに我慢して、歯を食いしばっているためにできた口のまわりの深いしわ。

私だけ不幸なのよと被害者を気取る、額の数本のしわ。


こんな自分を見たくなくて、私は鏡の前は素通りしていた。
家族は、いつもこんな私を見せられていたのに。



元お義母さんのお葬式以来、笑顔と感謝で過ごすことを日課にしてきた私。

口角を頬が痛くなるくらい、きゅっと上げる。
芸能人のように頬の筋肉が浮き出るのを、目指して。


すると葬式から2週間後、
ふと、自分の顔はどんな表情をしているかな?と気になり出した。

自ら鏡を見ようという気に、もしかしたら生まれて初めてなったのである。
のぞいてみたら、ちょっとやさしい表情の自分がいた。
うれしかった。


またある夜は、自分がちょっと美人になった夢を見た!

なぜか髪の毛の分け目を変えた私が久しぶりに鏡をのぞくと、いや~、ちょっと美人になっているではないか!


ホー!こんな顔なら、自分でも許せる顔だな。
これなら、人様にもお見せできる顔だな。

髪の分け目を変えただけで、
前よりも見られる顔になったと喜んでいる私がいた。



3週間後。

上下の奥歯5本に虫歯のできた娘を毎週歯医者に通わせているが、娘がいつも座る治療台の横に立つ私の後ろには、大きな鏡がある。


私は振り向いたときに、この鏡に自分の顔がうつるのがいやだった。

家の中にいるときよりは少しはマシな服を着て歯医者に来たけれど、堂々としている若い歯科医や、若くてきれいにお化粧している歯科衛生士たちの中で、化粧なしの自分だけがみすぼらしく見えるから。

ちっとも私が素敵なママン、あるいはマダムに見えないから。


けれども、3週間たったときにのぞいた歯医者の鏡。
ちょっとはママンと言ってもいいかな、と思えるやさしい表情の私がうつっていた。

あれっ?
私って、こんなにやさしい人だったっけ?と、しばらく鏡を見つめてしまった。



今までもときには、
おっ、今日はイケてる!
今日はきれいに見える!
と思える日もあった。

ホルモンの関係か、自分に自信があるときだったからか、鏡をうつる自分の顔がいいと思えるときは、何とか上辺だけでも整えたかのように、マシな自分にホッとしていた。



さて口角を上げることで、私は見返り(=豊かさ)を求めていた。
きゅっと口角を上げて笑えば、いろんなビッグ・プレゼントが届き、いろんな人に出会え、楽しい毎日を送れると体験したからだ。

でも、こんなにも自分の顔自体も変わったことに驚いた。



毎日子どもに怒鳴ってばかりの私の中に、こんなにもやさしいママンの自分がいたんだ。

離婚して、生涯男性にふられっぱなし記録更新中の私でも、やさしい女性性をもつ部分があったんだ。


もちろん、私にもやさしい部分はあると思っていた。
でもそう考えて自分を慰めるだけなのと、それを鏡の中で確認することができるのとでは、天と地の違いだ。

今までは、醜い自分を鏡で見たくなかったけれど、これからは不平そうな表情の私が鏡にうつっていたとしても、いけないいけない、こんな顔じゃあ幸せを呼べないよとこれからは思える。



自分で自分の顔を鏡を見ることができないのは、悲しかった。

本当は、
「どうして、そんな不平不満な顔をしているの?」
と自分に向かって、問いたださなければいけなかった。
でも、それは苦しくてできなかった。


だけど一度鏡の中の自分を好きになれれば、醜い自分がうつったとき、
「なぜ、いつものようにやさしい自分の顔じゃないのかな?」
と、苦しまずに思える。

その差は大きい。
鏡を正視できるかどうかの差は、
とても大きい。




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