心の奥底から湧き上がってきた言葉で、自分を見つめよう

思いわずらうことなく愉しく生きよ

ひまわりちほりん

「そうね。恋をしてるんだものね」
育子は首を傾げたが、何も言わなかった。

恋とは違う、と、育子自身は思っている。
育子には恋は恐ろしすぎる。
恋に足元をすくわれないように、細心の注意を払って生きてきたのだ。


--誰かのものになりたいの。

姉妹でお酒をのんだ新年会で、自分がそう言ったことを思いだす。
ピニャコラーダの入ったつめたいグラスを、育子は両手ではさんでいた。


--誰かのものになんてなれないのよ。

怒ったような口調で、香水のきりっとした匂いの中心で治子が断じ、とりなすみたいに麻子がにっこり笑みを浮かべて、

--そうなりたいなら、自分でなるよりないのよ。

と、言ったのだった。
南仏産の赤いワインを、際限もなく啜りながら。


誰かのものに、自分でなる?
そんな、自家発電みたいな真似はいやだ、と育子は思う。



江國(えくに)香織著「思いわずらうことなく愉しく生きよ」 (光文社)より。
cover




私は、誰かにほめられたい。
誰かに認められたいと、ずっと思ってきた。


自分で自分をほめる。
自分で自分を認める。

そんな”自家発電”は、いやだと思っていたのだ!


なぜなら私は、見栄っ張りだったから!!



自分で自分をほめるより、誰かにほめられたほうがいい気持ち。
みんなにも、ほめられたよと見せびらかすことができる。

自分で自分を認めるより、誰かにも認められたほうが偉くなった気分。
みんなが私を認めているよと、自慢ができる。



私は、自分で自分をほめて威張れるほど、尊大な女じゃないのよ。

自分で自分を認めて自己主張できるほど、自信過剰な女なんかじゃないのよ。


そんな振りをしていたかったのだ。



なぜなら、自分はこんなに考えている。
こんなにみんなの心配をしている。
こんなに頑張っている!

だけど自分で言っちゃあ、威張っているみたいでだめよ。
誰かに認めてもらって、こっそりいい噂をたててもらわなくっちゃ。


謙遜している振りをして、さらに立派だわとほめそやしてほしかったのだ。



あ~、なんて見栄っ張り!
他人を利用としようとしていたにすぎない。

他人のほめ言葉は、私をより大きく魅力的に見せるための道具だった。



けれども最近、自分で自分はこんなに頑張っているよと、思い切って言うようにした。

しかし頑張っているよと言っても、
ふーんとか、あらそうで終わってしまう人もいっぱいいる。


なーんだ、ほめてくれると思ったのに・・・とがっかりしてしまうが、そのたびに、世の中、自分だけが大変なわけじゃないと思い知らされる。


みんな、自分のことで精一杯なんだとわかる。



だけど、みんなも頑張っているのと自分が頑張ったことを他人に伝えるのは別のこと。
そしてまた、自分が頑張ったこととそれを他人が認めるかどうかは、別の話。

関連は、まったくないのだ。


また自分より他人のほうが頑張っているから、自分の話をするなんておこがましいというのも、まったく関係のない話なのだ。



だからどんどん、自分が頑張ったことを人に伝えるといい。
どんなに自分が、一生懸命やったかということを。


相手がどう反応するかは、自分の頑張りと関係ないのだから、伝えたいこと(=自分が頑張ったこと)は、どんどん話せばいい。



自分のために伝えるんだろうね。
そしてそれを聞いてくれた人に、
こちらこそがありがとうなんだね!

誰もほめてくれない、誰も認めてくれないと逆恨みしていたけれど、自分の頑張りをただ聞いてもらえばよかっただけなんだよね。



見栄っ張りだから、こんなに頑張ったことをほめてくれるだろうなんて、勝手に相手に期待していた。

期待せずに、ただ、自分の頑張りをしゃべればよかっただけなんだ。




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