心の奥底から湧き上がってきた言葉で、自分を見つめよう

海のはてまで連れてって

ひまわりちほりん

男の人はお礼さえ言わなかった。

どうして、そんなひどいことができるんだろう。
お金持ちの人なのに。

一等船室で旅をするには、たくさんのお金がいる。
あの男の人はお金をたくさん持っていて、そして、父さんにひどいことをした。

お金があれば、ほかの人にひどいことをしてもいいんだろうか?


そんなことないと思う。

だけど、ドミニクスさんみたいな人もいる。
ドミニクスさんは、こぼれ落ちそうなくらいたくさんの宝石や高い時計を身につけてる。
この船のなかでもとびきりのお金持ちの人だと思うけど、だれよりもやさしくて、ていねいで、親切で、友だちになりたくなる人だ。

へんだな。
お金持ちだから、ほかの人にひどいことを言ったり、
行儀(ぎょうぎ)の悪いことをしたり、意地悪をしたりしてもいいと思ってる人がいる。

だけど、お金をものすごくたくさん持っていても、親切な人がいる。
たぶん、お金は関係ないんだ。
その人自身の問題なんだと思う。



アレックス・シアラー著「海のはてまで連れてって」(ダイヤモンド社)
cover



先日、子育てに関する講演会に出席したとき、
野菜嫌いな小学校1年生の息子のことについて先生に質問した。


「お肉や魚はなるべく食べないで野菜中心にしているのですが、
ご飯に塩や醤油をかけたり、味海苔やふりかけでご飯を食べています。
これでいいのでしょうか」

すると先生は、
「ご飯に塩じゃ、ミネラルが足りませんね」
と、苦笑いしていた。



質疑応答が終わって解散になると、
無農薬野菜を栽培しているという若いご夫婦のご主人が、
私に声をかけてくれた。

「おいしい野菜を食べていますか?」


私は、ハッとした。
そうだ、息子は味に敏感だったのだ。

私はその方の畑に後日行く約束をして、別れた。



その3日後、私は娘の幼稚園の帰りに通る野菜の直売所を初めて訪れてみた。
おいしい野菜を求めて、である。

小屋の中には、レジのところにおじさん一人。
野菜が置いてあるので、暖房もない寒い小屋で体を丸めておじさんは眠っていた。



大根3本、人参4本、玉ねぎ3個。
そして青菜にブロッコリー、しいたけ、こんにゃくなど一袋ずつ。

これで、950円。
安いよね!


私は安くて新鮮なことがうれしくて、おじさんとひとしきりおしゃべりした。



家に車で戻る途中、畑で腰をかがめて白菜を見ているおじさんを見かけた。
この日の朝は雪がちらつき、私は寒くて車の暖房も強めていた。

私は、あっと思った。


私が買った野菜はあのおじさんのように、
農家の方が寒い冬の間も毎日世話をし続けてできたものだったんだ。



お金があれば、何でも買える。
だけど、「買える」ことと「買ったものの価値がわかる」こととは別だったんだ!



野菜を食べる私に、野菜が命をくれることにありがとう。
とは、頭で理解していた。

でも、野菜を育ててくれている農家の方々の苦労を忘れていた。



直売所の暖房のない小屋で、野菜を販売していたおじさん。
雪がちらついても、畑を見回っていたおじさん。

白菜やしいたけも作ったことがないのに、
お金を出して手に入れることを当たり前に思い、
お金を出せば食べられることを当然のように思っていた。


感謝が足りなかった。



感謝するべき理由に気づいていなかった。

売ってくれる人。
宣伝する人。
作ってくれる人。
お金を稼いで来てくれた人。


いろんな人が関わって私は食べ物を口にし、私の命を明日につなげてもらっていた。




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