みんなのOUCHI

キラキラしていた。

やまぎし・のら

早朝の海を訪れたことがありますか?

青空の青がまだ薄くて、空気も直線で肌寒い感じ。


あれは、9月だったか?

保育園に行きたくないという息子と、
その産まれたての妹を抱え、
途方にくれる毎日を過ごしていた。


悩み事というものは、
列を連ねて来るようで、


あのころ、

夫のこと
母のこと
息子のこと・・・。
重なりすぎて、息をするのも苦しかった。

ストレスがカラダ全体を支配していた。

午前6時、
単身赴任の夫を駅で見送ったあと、
私は、心細さを持て余し、
すぐに主のいない家には帰りたくなかった。

ちょっとの間、現実を忘れたかった。


海までは30分。
登園の時間までには帰ってこれる。
よし、小旅行にはもってこいだ。

「海に行ってみようか?」
    息子の目が輝いた。


ザブーン!ザブーン・・・
ザブーン!ザブーン・・・


穏やかな早朝の波は、
重く切ない気分を洗い流していく。

これが現実?
あれは幻?


今がまぼろし?


目の前に大きく広がる青い世界は、
私の今を少し和らげる。


cover

「海ダー!!やったー!!」
 息子は全速力で走る。
砂浜を駆け抜ける。まるで、波と競争しているみたい。


彼も彼で戦っている。

だめなママでごめんね。


「ママー、ほらでっかい木!」


息子より大きな流木が流れ着いていた。
息子はそれを、体いっぱい使って海に還した。


だんだん海が流木を沖に連れていく。


「また変なことして~」
    私は口をへの字に曲げた。


「どんどんあっちにいくね」
    息子はたのしそうに言う。


流木はゆっくり、でも確実に岸から離れていく。
私たちは、しばらく行く先を眺めた。


‘キラッ’

 え?

‘キラッ’

 なに?


流木に瞬間、光が反射する。


「ねぇ~、あそこ輝ってる」
「あ、ホントだ!」

「何だと思う?」
「なんなの?何?」


よーく目を凝らす。


「あ、魚だ!」
   息子が叫んだ。

「ホントだ、魚だわ・・・」


小さい魚が、流木の周りを飛び越え回っている。
1回、2回、3回・・・。


何しているの?

遊んでいるの?


流木を飛び越えるとき、
魚のお腹が太陽の光に反射して‘キラッ’と輝る。

すごい!


これって、すごいことじゃない?

すごいもの見てるんじゃない?

こんなことあるの?

でも、何だか楽しそう。
本当に楽しそう。
一緒にやってみたいくらい・・・。

「すごいねー。ママと僕だけ見てるねー」
      息子も興奮している。

来てよかったー。
来てよかったね・・・。


贈り物かな?
贈り物だよね・・・。


私と息子と、私の胸で眠っている幼い娘。

ずっと‘キラキラ’していた。
私たちが離れるまで。

海っていいな。
海っていいね。

スポンジみたいに、
切ない気持ちを吸っていく。

忘れないよ。
忘れられないよ・・・。


この瞬間、


切り抜かれた思い出。

キラキラとした、輝ける時間をー。




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