みんなのOUCHI

シンデレラ

やまぎし・のら

「時間がない。」っていつも思う。

といっても、本当に時間がないわけでもない。
何もしていない時間だって多いし。

「何もできない」って言った方が正解。

子どもが生まれてから、ずっとそう。
自分だけに使える時間が、ビックリするほど激減した。

最近、ゆっくり本を読んだのはいつだろう?

独身の頃、一人の時間をもてあまして、
マックだか、モスだか、ドトールだか、
コーヒー一杯で粘って、よく手紙なんか書いていた。


会社まで、バスで30分。
どうせ暇だからって、1時間半かけて毎日歩いた。
河沿いのコースで、ボートが通るたび大きな波が立っていた。

誰も私を縛らなかったし、
それが、ちょっと物足りなくて、
それが、ちょっと寂しかった。

よく本屋にも立ち寄った。

何か買うわけでもなく、何かお目当てあがるわけでもない。
ただ、そこに本屋があれば、自然に足が向いた。

本屋に行けば時間がつぶせた。

店内をぶらぶら一周し、気になる表紙に立ち止まる。
しばらくパラパラと雑誌などめくり、
「まだこんな時間か・・・」
時計の針を恨めしく眺めた。


あの頃、
「自分だけの時間」は、やたら長く退屈だった。


本をゆっくり読む時間が、今の私にあるだろうか?


子どもが生まれてから、今までずっと、
まともにゆっくり本を読んだ記憶がない。

本を読まないわけではない。
ただ、端から端まで丁寧に読み込むことはなくなって、
やたら、斜め読みが上手になった。


こんなに、自分の時間が大切だなんて、
あの頃は気づかなかったな。

こんなに、時間がなくなるなんて、
想像もしてなかった。

あの頃、自由は、
果てしなく道端に落ちていた。
自由は、タダでいつでもそこにあった。

今、自由になるには、お金が掛かる。
お金で時間を買っている。

あと何年、こういう日々が続くのだろうか?
毎日が、ケツカッチンの時間制限。
かなりくたびれた「シンデレラ」は、いつも一人旅を夢想している。


息子が、まだほんの小さかった頃、
飲み会に誘われて、
息子を夫に頼み、久々一人で外出することになった。


私はうれしくてたまらなかった。
そわそわして、夕方前になるともう出かけたくなった。

「え、もう行くの?まだ早くない?」
「うんでも、駅まで歩いていくしー」
「駅まで歩くの?」
「だって、車は乗っていけないでしょう?」
「じゃあ、待ち合わせ場所まで送っていこうか?歩くの大変だろ?」
「え?いいよいいよ大変でしょ?」
「いいよいいよ、送っていくよ」

夫は、返事も聞かずに車の準備を始めた。

私は急に気分が重くなった。

歩きたい・・・。

そう思った。

一人でゆっくり歩きたい・・・。

10分の道のりを、一人でのんびり風を感じて歩きたかった。

でも、なんとなく言い出せなくて車に乗った。
夫も、息子と二人っきりが不安なんだー。

歩きたかったな。
歩きたかったな・・・。
車の中で、無口で、ずっとそう思っていた。

そういえば、ず~と、
一人で、歩くことさえしてないんだ・・・。

10分っていうほんのささいな時間さえ。

そう気づいて、また少し悲しくなった。


今は、あの時ほどの飢餓感はない。

それでも、

早く早く、子どもたちが成長して、
早く早く、自由になりたいと今でも思っている。


でも、

子どもが巣立ち、
様々なしがらみから開放される時、


私は本当に「幸せ」なんだろうか?
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