みんなのOUCHI
風が吹けば
やまぎし・のら
急に肌寒くなってきた。
あんなに眩しくて、あんなに暑かった夏ももう終わり。
日本ってすごいな、
日本ってすごいね。
季節が、きちんと、ガランと変わる。
秋は、少しセンチメンタル。
忘れていた事をふと思いだしたりして、
まだ覚えている自分にうろたえたりして、
そして、ちょっとキューンと切ない。
何年か前、
たまたま一人で街に出かけた。
用事の合間に時間が空いて、昼過ぎ、
ひとりでコーヒーショップへ。
その日は、たまたまマトモナ服を着ていて、
その日は、たまたまちゃんと化粧をしていた。
もう何年も、しゃれた格好なんてしてなくて、
産卵の終わった鮭みたいに抜け殻よろしく、
髪振り乱しながら、チビを追い掛け回していた。
毎日、毎日。
「自分はもう終わったな・・・。」
はっきりと意識はしていなかったけど、
気持ちのどこかに諦めがあった。
次世代に譲ってしまった世界・・・。
コーヒーショップは、独身時代によく立ち寄った場所。
生活の染み付いた「今」から、少し離れたかった。
アイスコーヒーを頼み、壁際の席。
しばらくボーっとしながら、壁に飾られた絵を眺める。
それから、何気なく店内を見渡した。
「え?」
「あれ?」
「うそ・・・」
何が起こったの?
頭が一瞬真っ白になる。
「小林さんだ・・・。」
本を読んでいる、スーツ姿の男性が目に入った。
昔、大好きだった人。
こんなところで会うなんて・・・。
「やだ、小林さんだ。うそ!どうしよう!!」
「何でここにいるの?」
「やだ、気づかれてない?大丈夫??」
とっさに、背中を向け、縮こまる。
「え?気づかれたくないの?」
「え?だって、もう鮭じゃん!ぼろぼろじゃん!!」
「え?でも、今日まともな格好してるよね、私」
「あ、化粧もちゃんとしてきたんだった・・・。」
「え、どうする?このまま知らんぷりする?」
「え、でも、折角会えたのに・・・。」
動揺のまま、混乱のまま、それでも考え続ける。
「まって、まって、髪大丈夫?」
「服は?顔は?服装は?」
「おばさんッぽくない??」
ばたばたとチェックを繰り返し、
とりあえずの最終チェックを済ます。
「GO!」の合図とともに、勇気を出して振り返る。
しばらくして、彼は顔を上げ、目線が合った。
一瞬の驚いた表情。
でも、
それは、すぐに笑顔に変わった。
「元気だった?」
「ああ。びっくりしたー」
「こっちもだよ」
なんてたわいも無い会話。
15分くらい話しただろうか・・・。
何を話したかなんて、ほとんど覚えていない。
きっと、たいした話なんてしていない。
ただ、昔を思い返していただけ。
彼も少し、おじさんになったかな?
もしかしたら、前より少しくたびれている感じかもー。
って、ことは、
私は、おばさんに見えるんだろうな。
もう、きっちりママしてるもんなー。
キレイに見えてるかな~。見えてたらいいな~。
たぶん、そんなことばかり考えていた・・・。
秋の風は、思い出を運ぶ。
思い出は美しく、
苦い思いでもまた、輝きを増す。
思い出は、
キューンと胸のあたり切なくする。
それは、
好きだった人への思いなのかも知れない。
もしかしたら、
今もなお、消えない灯りが、どこかにあるのかも知れない。
でも、
それは、きっと、今の彼への思いではない。
「大好きだった」
あの時の、
あの時の私への、
ひたむきな私への、
「純粋な愛おしさ」
そんな気がする。

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